ナポレオン・ボナパルトとヒールアップシューズ——「低身長の象徴」は、実は低身長ではなかった
ナポレオン・ボナパルト。「低身長のコンプレックスが攻撃性に変わる」という「ナポレオン・コンプレックス」という言葉の語源となった男。
しかしその前提が、根本から間違っていた。
「5フィート2インチ」という誤解
HISTORY.comはこう記している。「ナポレオンの身長は、フランス単位で『5ピエ2プース』——5フィート2インチと記録されている。しかしフランスのプース(pouce)は2.7cmで、英国のインチ(2.54cm)より長い。この単位の違いを換算すると、ナポレオンの身長は約169cm——19世紀初頭のフランス人男性の平均をやや上回る」
The History Blogはパリのオークションハウス・ドルオーで2019年に落札されたナポレオンのブーツについてこう報じている。「ナポレオンが短身だという考えは、生前は英国の風刺家によって、死後は単位換算の混乱によって広められた。フランスで1800年に生まれた男性の平均身長は164cm。ナポレオンは169cmで、むしろ平均より高かった」
英国プロパガンダが作った「小さなボニー」
では「低身長のナポレオン」というイメージはどこから来たのか。
Britannicaはこう分析している。「1803年、英国の風刺画家ジェームズ・ギルレイが『マニアック・レイヴィングス——強い発作の中の小さなボニー』という風刺画を発表した。ナポレオンは大きすぎる軍帽と大きすぎるブーツをつけた子供として描かれ、英国紙でナポレオンを『小さい』と描く標準的な表現になった」
戦争中の敵国が流したプロパガンダが、200年後も「事実」として信じられている。
オークションで1,280万円のブーツ
2019年、パリのオークションでナポレオンが着用したブーツが117,208ユーロ(約1,280万円)で落札された。モンマルトルの靴職人ジャックが製作した黒のモロッコレザー製で、高さ48cm、ヨーロッパサイズ40(日本サイズ約25cm)。このブーツのサイズから逆算すると、ナポレオンの身長は約169cmと推定される。
歴史家たちは、ナポレオンがヒールの付いたブーツや高い襟の軍服を好んだことが「身長差の神話」をさらに強化したと指摘している。ヒールを履いた低身長の将軍が、裸足の兵士たちの横に立つ——それが「小さく見える」という印象を作った可能性がある。
「ナポレオン・コンプレックス」という概念の皮肉
HowStuffWorksはこう記している。「『ナポレオン・コンプレックス』という言葉はMerriam-Websterによると1924年頃に生まれた——ナポレオン戦争終結から約100年後のことだ。平均身長のナポレオンの名前が、低身長男性のコンプレックスを表す言葉になった」
169cmの男の名前が、100年後に低身長男性を傷つける言葉になった。これ以上の皮肉はない。そしてその神話を広めたのは、彼を恐れた敵国だった。恐れるほどの男を、「小さい」と呼ぶしかなかったのだ。
「低身長は弱さだ」という概念そのものが、プロパガンダによって作られた虚構であったのだ。ナポレオン自身は、ヒールの付いたブーツを履いて戦場に立ち続けた。補うためではなく、征服するために。